2000 年6 月施行されました改正JAS法は、欧米の国際基準をそのまま日本に導入したもので、それは欧米の圧力があったことなど、前回№14の「食
について思うこと」でご紹介いたしました。今回は、その内容について更に具体的にお話をして参りたいと考えています。
1996 年、私はアメリカの有機農業(オーガニック) やアメリカで行われている有機認証制度などの勉強をするため、全米各地の生産者の方々のところや
認証団体などを訪ねたことがあります。カリフォルニアのある生産者のところ
へ行ったときに驚いたのは、畑(農場)の広さでした。日本的に言うと、1
枚の畑が50町歩(50ヘクタール) とか100 町歩(100ヘクタール)あるわけです。
日本の農家の畑は、1 枚当たり10アール(1反歩)から30アール(3 反歩)でありますから、ちょっと比較にならない違いになることがおわかりと思います。
1 枚の畑が、日本の場合10アール(1反歩)とするとアメリカの50町歩と比べ
ると約500倍ということになります。
改正JAS法の認証制度は、認証団体によって様々違いありますが、ざっくりと大別すれば、1枚の畑に対する認証、もしくは、1回の登録に対する 認証というになっています。簡単に申し上げれば、50ヘクタールも10アールの畑 も1枚は1枚で、認証にかかるお金は同じ額ということになります。もっと具 体的に申し上げると、日本の場合、1枚1反歩(10アール) の認証を受けると、大体20万円以上かかるわけですが、アメリカの場合も同じ金額にした場合、100ヘクタールでも20万円ということになるわけです。更に日本の農家は、小さい畑にをあちらこちらと飛び地でもっている場合がほとんどですので、例え ば5カ所の畑の有機認証を別々のタイミングに取得するとすれば、20 万×5 回=100万円がかかるということになります。これが毎年です。
以前ご紹介した屋久島タンカンの生産者の鶴田さんが認証を受けるとしたら、1 枚あたり20 万円、それに屋久島にきてもらうための交通費、宿泊代など
諸費用の負担も必要となりますので、1 回の認証をうけるためになんだかん
だと50 万円もかかることになります。屋久島はご存知のように台風がよくきますので、畑と畑の間に風除けの仕切り板を作って、風邪から木を守ってい
るのですが、これも仕切ったところは別の畑の扱いになる場合もあるので、鶴田さんが有機認証を受けようとした場合、約10 枚×20 万=200 万プラス
諸経費という計算になります。鶴田さんの年収は、手取りで約100 万円くら
いですので、これはとても無理な話であることがおわかりのことと思います。
何故、無農薬無化学肥料で栽培している、昔から有機農業を行っている生産者が「JAS認証」を受けないのかという質問も多々受けるのですが、このような現実が大きな理由としてあるからなのです。
更に、この認証は毎年受けなければならない仕組みとなっており、毎年お金がかかるのです。弱い者を切り捨て、強い者が生き残っていくまさにグロー
バル化(国際化)の考え方が、日本有機農業の生産者の皆さんを押しつぶすことになっているのです。
国際基準の改正JAS法は、以上のように、農家の負担がとてつもなく大きい認証制度といえるのです。そして認証団体が儲かる仕組みになっている
制度なのです。これらの認証制度を利用して「JAS認証」を取得し、唯一の有機農産物として流通させることができるのは、お金のある生産者であります。お金がなければ、安全のお墨付きはもらえないという仕組みがあるからです。お金があるのは、大手生産者団体や大手の有機農産物の流通業者であり、今このような団体が「JAS認証」を大量に取得しているのです。大手生産者団体=大手認証団体の中に有機農産物が埋没していく構図がおわかりのことと思います。
国際基準改正JAS認証制度は、以上お話をしてきたような問題をかかえて
スタートしています。
今回の特にお金の問題からとらえて皆様と考えてまいりましたが、前回も書いたように、長きにわたって日本の有機農業にかかわり、地域の環境や食
の安全に貢献してきた生産者を切り捨てることになっているのです。
農家の皆様の負担の少ない有機認証制度というものの確立のため、私たちが努力していくことは言うまでもありませんが、新しい改正JAS法というものが、
誰のために施行されているものなのか。「生活者」の皆様の1人1人にもよく考えていただきたいものと思っているものです。
余談ですが、地球人倶楽部の新しく入会を考える多くの方は、最初に「お
試しパック」などを購入されるのですが、お届けをした時に、必ずこの中の農産物は「JAS」ですか、という質問をされます。「いや、すべてJASで
はありません」と正直に答えますが、このような話は生活者の間で、JAS=
安全という考え方が、浸透していることを表しています。また、それは、そ
れ以外のものは安全でないということになって、地球人倶楽部は信頼できないということにつながってくるわけです。私たち地球人倶楽部は、それはそれでしっかりと受け止めていかなければならないと考えています。私たちが
大切にしていかなければならないことは、誇りを持って有機栽培を実践してきた真面目な生産者を守り支え、ともに食の本質を求めていくことにあり、また、生活者の皆様に対しては、そうした質の高い生産物を出来る限り日常の物としてお買い求めいただける価格を追求していくことも役割のひとつであると考えています。
アメリカの認証団体の代表の方は、私に言いました。 「これはビジネスなのです」と。日本の導入した国際基準の改正JAS法は、有機ビジネスを導入したのでしょうか・・・。 次回もJAS法についての話です。