第16回 食について思うこと

2009年11月23日

改正JAS法が施行され約8年が経過しています。
デパートやスーパーでも「有機栽培」の野菜や輸入されたオーガニック食品がたくさん並んでいます。40年以上にわたって有機農業に取り組み、有 機農産物に市民権を得るため努力を続けてきた方々の苦労が、やっと日の 目を見ることになった、と申し上げたいところですが、現実は逆で、有機農 業に早くから取り組んできた小さな国内の生産者の皆様が滅ぶという大変な事態がおきつつあります。
改正JAS法施行以来の大きな変化は、日本国内へのオーガニック食品やオーガニック原料の大量輸入という状況です。この状況こそが欧米、特に米国の一番望んでいたことであったのです。アメリカの有機認証制度(国際基準)がそのまま日本に持ち込まれ、アメリカのオーガニック食品が瞬く間に日 本の市場を席巻し、オーガニック食品のほとんどが輸入食品となり外国のオーガニック原料に依存するという状況にすでになりました。最も解りやすい例として、日本の大手醤油メーカーが発売した「有機しょうゆ」についてお話しましょう。
この醤油は、アメリカから輸入されたオーガニック認証の小麦と大豆で作られています。「有機納豆」や「有機みそ」なども同じように輸入された原料 を使った認証食品なのです。このことに象徴されるように、世界に誇る日本の伝統食品(調味料など)の原料は、すべて外国に頼り、今まで有機農業や安全な食べ物というより、低コスト、低価格、大量生産にのみ走っていた大手食品メーカーなどがこの改正JAS法を機に、アメリカなどのオーガニックの原材料を使ってJAS認証を受け、JAS=安全な食べ物として販売を 拡大していることがよくおわかりのことと思います。

さて、「有機しょうゆ」の話に戻りますが、私たち地球人倶楽部の醤油の生産者、井上醤油店さんは、6代に渡って(約150 年間)昔ながらの製法(杉の樽で2年以上の醸造期間を経て)で醤油を作りつづけています。
原料の大豆や小麦はすべて国産です。この国内自給率の最も少ない範疇に入る大豆と小麦という原材料を確保するため、農薬に頼らずコツコツと生産をつづけてきた農家の皆さんに少しずつ栽培してもらっているわけですが、年をとって栽培をやめる方々も多く、年々原料の確保は難しくなってきていま す。井上醤油店さんの場合、少量ずつを複数の生産者に栽培してもらって いるということをお話しましたが、こういう状況では大豆の有機認証を取ること は非現実的であり、またとるつもりもないというお話です。従って改正JAS法 の下では、井上さんの古式伝統のお醤油は、単に普通の物。片やすべて輸入原材料の「有機醤油」は、JAS=安全ということですから、最も優れたお醤油であるということになります。そして付け加えるならば、価格は井上醤 油が高く、JASの醤油は安いというわけです。
 また、自然食品系の国産有機トマトジュースを販売していたメーカーが、改正JAS法後、アメリカに有機のトマト栽培を委託し、有機醤油と同じように 「有機JAS」のマークをつけて現在販売しています。私はそのメーカーの代 表に、あなたのような会社は、日本の生産者を育てていくべき立場ではない のかとお話をしたことがあります。その代表は、そのとおりであるけれども、国内の生産者に有機認証を取らせるとしたら、今の売上と同じくらいのお金 がかかっちゃいますよ。それに、なにより日本では原料の確保が安定しない、なので、調達が簡単なアメリカで解決したという話でした。

 日本が多くを輸入している諸外国との農業分野の競争力の違いは歴然です。
アメリカのような気候風土の農業は、農産物にとっては日本で「ハウス栽培」 をしているような環境で、ストレスのない環境であるといえます。広い国土、広い農場、大陸型で乾燥した気候。雨も日本の10分の1 の約180mm ほど しか降らず、病害虫にとっても発生しにくい環境です。一方、狭い国土、 アジアモンスーン地帯、高温多湿という環境は病害虫の発生、雑草の繁殖など、農業をやっていく環境としては決してよいものではありません。加えて、後継者、農業従事者の人口は減少の一方です。誠に古い喩えですが、日本の農業がアメリカの農業と戦うことは、竹やりとミサイルほどの違いもあると いえます。そして、一般の栽培であっても競争力がまったくないところに、今度は、有機認証=安全のお墨付きとして著しく不公平なルールを日本や アジアの国々に国際基準として圧力をかけて導入させ、そして自分たちにとって有利な状況を作り出してオーガニックの食品やオーガニックの食材を大量に輸出する、そしてそのような状況が日本の有機農業や有機食品加工の生産者を埋没させ、押しつぶすことにつながっているのです。

 誰にでもわかりやすいマーク「有機JAS」。そして、JAS=安全という考えのもと無添加食品の原料は著しい勢いで、輸入物へと変化しています。
果たして、食品の安全性を外国の原料に頼っていくことが正しい方向性なの でしょうか。
食の安全、食料自給率、そして持続可能な農業の実践・・・。これらはひとつひとつ単体で存在しているわけではないのです。 次回もJASについてのお話です。

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