改正JAS法について様々な視点から考えて参りました。
今回は生活者の皆様の視点から見たJAS有機農産物の「安全」というものについてお話を進めてみたいと思います。改正JAS法による「有機農産物の生産方法基準」は、堆肥等による土作りを行い、播種、植え付け前2年以上(多年生作物の場合は収穫前3年以上)及び栽培中に原則として化学肥料及び農薬は使用しないこと。遺伝子組換え種苗は使用しないこと。
以上が基本的なポイントですが、その他に別表が①~③まであり、
それぞれ
別表の① - 肥料及び土壌改良剤のリストと基準
別表の② - 使用可能農薬リストと基準
別表の③ - 調整用資材リストと基準
が定められています。
別表の②の項でもお気づきのように、使用可能農薬リストというものがあり、約30
種類弱の農薬の使用が認められています。天然のものである、また、長年使用
されてきて無害であるとの論拠のもとに「必要最小限」の使用を認めていますが、農薬リストの中には「食について思うこと(№5)」でお話をしたことのあるボルドー
液(農薬) や、人に対する毒性、あるいは発ガン性物質ともいわれているデリス
乳剤や環境汚染物質ともいわれている天敵等生物農薬性フェロモン剤などがリス
トに入っています。(注: デリス乳剤は批判が強く、2006 年3月JAS法改正見直しで禁止農薬とされた)例えば、ボルドー液などは、日本では以前より農薬として登録されており、1回でも使用した場合は、本来農薬使用の表示義務があるわけですが、JAS法の中では何回使用しても無農薬で栽培されたものとして扱われるのです。それは
さておきましても、有機JAS農産物はJASマーク=安全との認識を生活者の皆様
は強くもっておられますが、これらの「無害」が証明されたという農薬や肥料、土壌改良剤を使って栽培されているものであることは、最低限認識しておかなければならないと思います。問題は国内基準と国際基準のダブルスタンダードです。
国内では農薬として扱われている物でも、国際基準JAS法では、「無害」である
という矛盾が存在しています。解りやすい例として牛肉についてのお話をしましょ
う。EUとアメリカの「牛肉ホルモン戦争」というものが1988 年から現在まで続い
ています。アメリカの牛肉に使用しているホルモン剤の1 つ、天然型ホルモン剤
「エストラジオール」に発ガン性が認められるとEUが発表し、EUは断固輸入禁
止を行ったのです。アメリカはもちろん安全性を主張して猛反発し、EUから輸入している農産物に報復関税をかけ、「交戦状態」は今も続いているという話です。
この米国牛肉ホルモン剤について日本のとっている姿勢は、「日本は発ガン性の
根拠はないとみている」というもので、輸入は認められているわけです。ところ
が、国内においてはこのホルモン剤の使用は認めていないという事実もあり、
輸入品と国内品との間に2 つの安全基準があるというダブルスタンダードが存在し
ています。アメリカのものは認めるが、日本国内では使ってはいけない。これは、
シンプルに考えてもおかしいことで、それが国際的な圧力の中で認められたもの
であれば、圧力により変化する安全の基準は、生活者の安全を守るべき本来の基準の信頼性に疑問をもたざるを得ないということにもなるのです。
話は前後いたしましたが、別表①の肥料及び土壌改良剤のリストと基準
の「安全性」についても考えてみたいと思います。肥料の基準は、「家畜及び家禽の排泄物に由来する物」書いてありますが、有機物であればなんで
も「有機施肥」として使用しても良いというこのような基準は、有機農業
における「堆肥の安全性」というものについて大きな問題があると考えます。
日本的有機農業の基本的なスタイルというものは小農的「有畜複合」とい
うものであり、一軒の農家が田畑を耕し、家畜を飼い、山林の落ち葉など
も活用して行っていくのです。その要は良質の堆肥をどう作るかにあり、それによって田畑の作物の出来具合が決まってくるのです。その延長上に
地域内での有機農家と畜産農家が協力して進める地域内有畜産複合経営というものが生まれてきたのです。ほうれん草や小松菜の生産者、折本有機
出荷組合もこのような形で有機農業を行っているのです。この場合大切な
ことは、両者が有機農業への共通した考え方があることが必要で、有機農
家からは農薬や化学肥料、除草剤を使っていないワラやモミガラ、クズ穀物、
野菜などが畜産農家に提供され、畜産農家からは、良質の堆肥が農家に還
元されるという協力関係です。有機JAS認証制度がはじまり、ビジネス
として有機農産物を栽培する農家も大幅に増えてきました。それらは大規
模有機農業スタイルのものが多くなってきています。このような有機農業
は、大量の堆肥を必要としますので、その供給源は小規模有機畜産農家で
はなく、大規模畜産業者に頼まざるを得なくなります。これらの畜産業者は、
遺伝子組換え作物を利用した輸入飼料や抗生物質入りのエサに頼りがちに
なるため、それらは微量であっても田畑に投入されていくことは「有機農
産物」としての安全性に問題があると考えるものです。
宮崎県のある町で、地域の農業を活性化するため、日本で最初の町ぐる
みの有機の里が誕生しました。有機農産物が生活者の求めている物である
との考えではじまったのです。慣行農業から町ぐるみの有機農業への転換
ですから、それは大規模な有機農業でした。施肥は牛やニワトリのフンを
使用しましたが、大規模畜産のものであるため、その施肥は良質なものではありませんでした。有機農業の経験も少ない生産者がこのような施肥を
田畑に投入したために結果は惨憺たるものとなり、病害虫の多発、農産物
の品質は最悪の物ということで、日本で最初の有機の里の夢は、夢物語と
して現在にいたっているのです。また、都市生活からでる生ごみを施肥として農地に還元しようという試みもリサイクルの観点では1 つの考え方で
あるでしょうが、有機施肥として考えるとなれば、賛成できるものではありません。地球のすみずみまで汚染されてしまった今日、その汚染を食料
の生産現場にまで持ち込んではいけないのです。汚染を持ち込まない、新たに発生させない有機農業をめざさなければならないのです。
農薬におけるダブルスタンダード、堆肥の安全性、改正JAS法の矛盾
や問題についてお話をしてまいりましたが、「食べ物の安全」を考えるとき、それは単なる「記号」だけではないことを生活者のおひとりおひとりに考えていただきたいと思っています。