改正JAS法に基づき、有機農産物の任意表示が原則禁止され、第3者機関の認証を得たものだけに「有機」の表示販売が認められることになりました。新たな目安の誕生で、買う側にとっては、今後はウソの「有機」
表示が減り、これまでよりも店頭での選択がラクになる、また、有機農産物の流通業者や出荷先の生産者のいい加減さも多少改まるとの期待もあり
ます。これらは従来、有機表示が曖昧でいまいち信用できないというこれ
までの不信感に裏打ちされた「生産」「流通」「小売り」の領域において、買う側が安心して買えるという判断材料の1 つとなっていると思われます。
しかしながら一方では、認証を行う第三者機関も有機農産物の流通業者や
有機農産物の組織や出荷先が設立したり、ベンチャー的思考で設立するケースも多く見られ、認証そのものの信頼性が問題視されるケースも多発して
いるのが現状であり、有機認証制度の「信頼性」についても懸念されてい
るというのが実情です。
今回はこのような「有機認証表示制度」についての問題について考えてみたいと思います。
平成19年、昨年のことですが、「有機米」として認証されたものが、偽装「ニセ」有機米であったという事件が数多く発生しました。その中でも特に大型の案件の2例についてここで取り上げてまいりたいと思います。
大型の案件というのは、量としてのもので、1例で3000 俵から3500 俵のケー
スです。
1例目は、福井の生産者のものです。この方は有機米世界のカリスマ的生産者としてトップクラスといわれていた人です。それは、通常有機米が慣 行栽培の収穫量と比べると、2割~3割減があたりまえのところで、長年 の経験のもと、有機米で10アール、10 ~ 11 俵という慣行栽培に比較してなん の遜色もない収穫量の実績を誇っていたことによります。生産者にとって 収穫量の多さは、成功のひとつであり、多くの生産者が指導仰ぎ、教えを 請うていましたが、何年たっても収穫の上がらない生産者が、その秘訣を 知るためこの先生(生産者)に言わずに、先生の田圃の土壌分析をしたのです。結果は驚くべきもので、この土壌には大量の化学肥料が投入されて いました。この事実はすぐに世に知られることとなり、JAS法違反として大きな騒ぎとなったわけです。問題は、何故このような化学肥料が大量に使われているお米をJAS認証したのかということです。その状況を知る ため、私も関係者に取材をしたのですが、結論としては、あまりにも有名 な生産者であったため、本来厳しくチェックすべき項目について、すべて が甘かったというお粗末なものでした。JAS認証を受けるためのチェックポイントが数多くあり、そのクリアは厳しいものとなっていますが、この ケースは、年間の資材購入の帳簿を見なかったというものです。本人が見せ なかったのか、つけていないといったのか、つけ忘れたといったのか、要は資材購入履歴の帳簿がなかったというのです。化学肥料を販売した会社 は、大きな会社で、生産者に販売した伝票類は残っているのですが、それを 隠したのです。もちろん隠さざるを得なかったのですが、言うまでもなく本来は帳簿をみて、何をどこから買っているのか、大きい会社からの資材購入は、何を購入したのか厳しくチェックなければなりません。有名であ るという安心感が、曖昧さやナアナアな仕事を生んでしまったのではないかと考えます。
もう1 つの例は、千葉県で起こったものですが、こちらも3500 俵という大型偽装米事件でした。
このケースは、ちょっと考えられないような話となりますが、JAS認証に必要な基準3年間の無農薬無化学肥料という原則を無視し、1 年もの、2年
ものも有機米としてJAS認定したというものです。
この認証をした団体は、自然食品等の大手流通業者、大手醤油メーカー等
が設立したものですが、認証団体としての資格を問われても仕方がない問
題を過去にも複数起こしています。
生産者にペナルティはあっても、認証団体には何のお咎めないという事実
は、納得のいくものではありません。
最初の例の場合は、ベンチャー系認証団体で、農水省より厳しく指導を受け、今後このようなことがあれば免許停止ということも言われたと聞きますが、今迄のJAS法違反の問題について、認証団体が何かの罰則を受けたとい
う話は聞いたことがなく、このようなことが続いていくと、もとはといえば、
「ニセ表示」「デタラメ表示」などを防ぐために義務化された認証制度が、「表示」を信用するものがなくなっていまうということになりかねなく、懸念
されるものです。
2 つの有機米偽装事件について触れましたが、千葉のような例は論外としても、福井のケースの場合は、JAS法が土壌分析を行わないことが問題の
本質です。3年間無農薬、無化学肥料であればJAS認証をもらえるとい
うことで、慣行栽培~有機栽培へ転換する例が増えていますが、この場合、
田畑の残留農薬について何ら触れられていないのです。日本の場合、病害
虫が多発する国ですから、世界で最も多くの農薬あるいは除草剤が田畑に
投入されているということはすでにお話をしました。除草剤の中に含まれ
ていたダイオキシンなどはほぼ永久に消えることはありません。JAS法に
は関係がありませんが、以前にキュウリの中から30 年前の農薬が発見され
たということがありました。これは田畑の奥深くに農薬が残留していたと
いうことで、キュウリなどのウリ系の農産物は、水分を大量に吸収するため、
このような稀な事例がことが起こったと考えられました。
慣行栽培生産者が、有機農業に転換することは望ましいことです。しかし
その場合にこそ、今現在の自分の畑の土壌を分析し、一年、二年、三年・・・、
と自らの畑の残留農薬をチェックし、一年一年かけてどのように生まれ変
わっていくのかを数字として確認することは極めて重要なことであると考
えます。もちろん有機農業の田畑であっても、同様です。
個々数回、改正JAS法について様々な視点、観点から問題提起を行ってまいりましたが、会員の皆様はどのように受け止められましたでしょう
か?私の考えるところは、この改正JAS法というもの、JAS=安全というこの表示のみが「生活者」と「生産者」との関係において絶対的なものではなく、また「有機農業」「有機栽培」というもののとらえ方を正確に定
義づけているものではないと考えるものです。
食べ物の本質を1つの「記号」で表現しようとするのは、たやすいことではありません。国内の生産者を育て、日本の農地を守り、世界的な食料 不足の中で、自国の自給率を上げていく中の重要なポジションに有機JA Sはあるべきものと考えます。まずは、土壌の健全性確保のためになすべきこと、仕上がった農産物が人々の健康のために役立つ物であること。そのためのチェックポイントを前向きにとらえ、JASが新しい農業の方向への指針となることを切に願うものです。