第2回 食について思うこと

2009年11月23日

古い本が手元にあります。
昭和49 年(1974 年)に再版発行されたもので、「日本の草地社会(草 資源の活用)」と「日本の山地酪農」という2 冊の本です。
著者は、1908 年生まれ、東北大学理学部卒 理学博士 楢原恭爾。
戦後は、国立科学博物館植物研究官 1971 年退官という略歴の方です。

 巻頭の草地概説を少し引用、ご紹介させていただくと、 「日本では土のある所には、必ず草がたくましく茂るので、田畑の耕作に、 植林に、庭の手入れにひどく悩まされている。また、鉄道、道路、河川 の管理にも、草の繁茂に苦しめれている。特に田畑の耕作では生えがた い作物を生やそうとし、生えやすい草を抑えようとして苦しんでいる。
草に苦しめられるあまりに、このように草がよく茂るのは、国土の生産 力が非常に高いことを示すものであると考える余裕はない。草を悪者と 見、仇と考えて、草を資源とみなし、草地を立派な生産地と考えること は思いもよらない。僅かに家畜の飼料になり、堆肥となるのであるから、 草も資源と云えば云えるだろう位にしか考えられていない。国の内に満 たす最大の場が草地であり、残されている唯一つ、最大の、しかも尽き ることのない資源が草であることに気付かれていない。」

 前置きが長くなりましたが、耕地狭小なわが国にただひとつ残され た山地という眠れる資源を山地農法によって高生産の緑の酪農場に変 え、牛乳の国内自給に寄与していくという考え方を山地酪農と言いま す。牛を山野に放牧し、自然の中で自由に行きたい所にいき、食べた いだけ草を食み、ストレスのない環境で牛が育っていくのです。日本 中は山だらけ。山に牛を放牧すれば海外から飼料を輸入しなくても牛 乳の国内自給ができるという考え方です。
 地球人倶楽部は、この山地酪農という考え方に共鳴し、これらを支 援するために努力してきました。その1 つが木次乳業さんで、今、販 売している「山のおちち」という牛乳は、まさしくこの楢原先生の考 え方にもとずく牛乳といってもいいでしょう。余談ですが、「山のおち ち」というブランド名も私たち地球人倶楽部で命名したものです。

遠く島根から毎朝飛行機で届けられ、皆様には高い牛乳となっています が、私たち地球人倶楽部が木次乳業を選んでいる理由は、以上のような 考え方からなのです。
 再度余談ですが、地球人倶楽部が木次乳業の牛乳のお届けをスタート した当時は、この関東圏で木次乳業を知る方は皆無に均しく、木次(き すき)も「もくじ?」としばしば呼ばれるありさま。木次乳業は、牛乳 はパスチャライズ(低温殺菌)であるべきだ、ということをはじめて世 に問うた乳業であるという話を繰り返し会員様にし、たくさんのご理解 をいただいて今日までやってこれたのが実情です。また、宅急便では遠 く島根から東京、横浜に午前中には届かないため、飛行機に乗せて地球 人倶楽部が毎朝、宅急便のベースに引き取りにいき、はじめて会員様に 前日加工した新鮮なお乳を届けることが可能となっています。

 さて、現在日本の畜産、酪農も含めてそれらの飼料は、ほぼ海外から の輸入に頼っています。最近ではとうもろこしがエタノールの原料とし て開発されたことから、価格が一気に上昇し、そのことも牛乳等の価格 を値上げせざるをえない大きな理由のひとつになってきています。更に 商社関係の話では、来秋の収穫後の価格上昇は大幅なものとなるだろう という予測であり、国内産の牛乳をはじめ、牛、豚、鶏の畜産業界も戦々 恐々、これら家畜のエサは、ほぼすべて海外頼みという構造からくる問 題です。

 地球人倶楽部は、会員の皆様に安全な食べ物をお届けすることを仕事 としていますが、ひとつひとつの食べ物の選定にしっかりとした考えを もつことが大事なことで、牛乳ひとつにとっても、山地酪農、国内自給、 そして安全で栄養ある牛乳を生産する酪農家を、皆様のお力をかりて育 てていかなければならないと考えています。
今、日本の酪農は再び瀕死の状態にあります。はたして牛乳はミネラル ウォーターより安く売られてあたりまえなのでしょうか。

 最後に再び、楢原先生の言葉を伝えたいと思います。
「草地の研究結果をいかに積み上げても、ただそれだけでは役に立たな い。また、見事な草地ができただけでも役に立ったとはいえない。農民 の手を経て、農家自体が豊かになるとともに、社会に貢献して、はじめ て研究結果が役に立ったといえる。」

PAGE TOP

Chikyu-jin Club

Copyrights(C)2005-2009 株式会社プロップスジャパン All rights reserved.