第6回 有機農業について「循環2」

2009年11月05日

先週は地球人倶楽部設立8年目にして初めての引っ越しを致しまして、慌ただしさの中シリーズを休みましたこと、大変申し訳なくお詫び申し上げる次第 です。これからも毎週有機農業やまた様々な事柄について皆様とともに考えて参りたいと思っております。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。

アルバート・ハワード卿は、「この地球上の生命の性格とは何であろうか。その偉大な特質は何であろうか...」ということについて以下のように答えています。

それは、「自然の顕著な性格は、多様性と安定性である」と。


(原文ママ)

私達の周囲の自然の生命の多様性は、子供たちの想像力を強く感動させるものである。子供たちは、至る所で自然の生物を見て感動する。家の近くの野原や雑木林で、いつも遊んでいる小川や海岸の浅瀬で、またそのような日当たりのよい遊び場のない街の子供たちも粗末な裏庭や公園においてめまぐるしい変化や驚きに満 ちた動物の世界や、ほしいままに選べる草花や材木などをみて感動する。つまり子供たち自身、その一部である宇宙の自然として永久に受け入れるにあたり、初めて、そしてこの上もなく力強序曲ともいうべき多種多様な生物をみて感動するのである。

(更に引き続き)

「肉 眼でみても限りなく多様な形状は、顕微鏡下ではさらに目覚ましい。たとえば、淀んだ水中の緑色の粘液を調べると、新しい世界が展開している。あまたの簡単 な隠花植物、藍藻や緑藻これらの植物には、常に下等動物が共存している。何十億もの人類を養っている稲(米)が良好な生育をするためには緑藻の働きに大き く依存しているのである。カビの生えたパンの1部を拡大すると、緑色物質を全く含まない美しい透明の菌糸でできている隠花植物の他のグループの一群が見える。これらは農耕や園芸にきわめて重要な部分を占める糸状菌に属している。そこには、さまざまな形の生物をみることができるが、これらの様相から安定性の 原理を認識するまでには、さらに洗練された理解が必要である」


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 洗練された理解力など持ち合わせていない私には難解な論理であり、皆様に如何に分かりやすくお伝えしてゆくかについて大変困っていますが、私なりにこの多様性と安定性について要約をしてみたいと思います。

  地球の生命の多様性については、4千万種にものぼる生命体が確認されていることでも明らかです。植物の世界をとってみても、25万種にものぼる種が確認さ れており、こちらもまた多様性は顕著です。ちなみに、植物の25万種の内訳は材木が50%、草が50%と言われています。多様性については、以上のような ことからもお分かりいただけると思いますが、正に地球は生命の多様性の宝庫と言えるのです。蛇足ながらこのような多種多様な生命が地球になぜ存在するの か...、それは偶然なのか必然であったのか全くナゾに包まれています。17世妃にガリレオ・ガリレイ(1564-1642)が「宇宙は無限なのだ」と指摘し たことが物理学の始まりとした場合、コペルニクス、ニュートン、アインシュタイン、そして現代宇宙物理学の最高権威ステイーブン・ホーキングに至るまでの 現代科学の進歩も、いまだ生命がなぜ存在するのかということや、この生命の多様性について説明できる法則や理論は今のところもちあわせていないのです。ハ ワード卿は、もちろん地球の生命の誕生については述べておりません。しかし彼が述べていることの中で地球の生命体一つ一つが相互に依存しあい、そして共生 関係によってこそ多様性が維持され存続しているということに触れているのです。それは、環境の生命体が偶然によって発生したのではなく、必然であったとい う考え方であると私は思います。地球の多様な生命体、言い換えれば大自然が多種多様な生命の輪によって結ばれ、それぞれが依存しあい、助け合い共生してい るということ。また、多様性は地球の生命体が生存してゆくために不可欠のことであり、自然界の安定性とは正に多様性により支えられていることがお解りのことと思います。

地球が多様性を失ってゆく時に、地球の自然は安定性を失い、安定性を失った自然は、種の減少というプロセスをたどっていくことは現在の状況からでも明らかです。

  最近になって地球の様々な種が絶滅しつつあるニュースは耳にされたことがあるかと思います。これらのニュースは、一面的な感情論でとらえるべきではありません。地球の幾度もの急激な環境変化に対して耐え、そして生き残った進化の成功者たちが、今になって生きていくことの出来ない状況に立たされているという ことなのです。私達人間も哺乳類に属していることは言うまでもありませんが、この哺乳類の例で話しますと、古い昔約350万年前の更新世時代には、一世妃あたり絶液した種の数は全体のわずか0.01%であり、約10万年前の更新世後期には0.08%であったといわれています。ところが近世17世妃に入ると ヨーロッパ文明の拡大にともなう狩猟と乱獲によって、絶滅をする種は、急激に増加し、さらに現代に至る産業化と人口増加によってその数にはますます加速がつき、1600年~1980年の問には、なんと一世妃あたり17もの種が絶滅しているのです。この勢いでいけば1980年から2000年の問には、その数字は145にまで達してしまうであろうと予測されています。この事実は、先にお話しした地球を構成する一つ一つの単位が死んだ時に何が起こってくるのか、 またそれらに依存していた動植物たちの環境にどのような影響を及ぼしてくるのかについて、今私達は関心をはらっていかなければならないと思うのです。

1993 年、ブラジルのリオデジャネイロで第2回人間環境会議が開催されたことはご記憶にあるかと思います。国連環境開発会議という名称で呼ぶ人もあり、どちらが 正解かはともかくとしても、この国際会議で2つの条約が結ばれました。1つは生物多様性条約であり、1つは地球温暖化防止条約(気候変動枠組条約)です。 生物多様性条約は、以前にもお話したアマゾンの熱帯雨林をそのまま人間がいじらないで大切に現状保全していこうという条約なのです。アマゾンの熱帯雨林は、地球上で最も多様な種が存在している正に多様性の宝庫であり、これらを安定させ残していくという考え方で結ばれた条約なのです。前回のアマゾンの話で はこの条約を念頭に置きながら書いたもので、現実には条約は守られないと思いながらお話をしました。これらの話の中で、お解りいただけますように、今、地 球の自然を守っていこうという考え方は、地球の多様性を守るということと同じ意味をもつものであり、そのことに世界は気づいているということです。しか し、発展途上国の経済問題やそれぞれの国の権益も絡み合う中で現実は、なかなか条約の考えるような方向は難しいということなのです。私は、地球環境問題の 運動家ではありませんし、普通の考え方をもつ平凡な人間に過ぎませんが、そうであったとしても、現在の地球の環境の悪化ということについては大変心配しています。それは、皆様と同じです。

 言葉としてここに書くことも少しためらうのですが、生態系の破壊、気侯の激変、砂漠化する森、絶滅していく種、酸性雨、人口の爆発、汚れていく海、大気汚染、オゾン層の破壊、土壌侵食、地下水の枯渇・・・。人間の知性ゆえの科学の進歩が、 これらの現象を生み出したといえるのではないでしょうか。 ローマクラブ「人類の危機」レポート「成長の限界」という本があります。ローマクラブを簡単に 説明すれば、1970年3月にスイス法人として設立された民間組織で、世界各国の科学者、経済学者、プランナー、教育者、経営者などから構成されており、 現に政府等の公職にある人たちはメンバーに含まれない。またローマクラブはいかなるイデオロギーに偏せず、特定の国家の見解を代表するものでもありませ ん。このクラブは最近に至って急進に深刻な問題となりつつある天然資源の枯渇化、公害による環境汚染の進行、発展途上国における爆発的な人口の増加、軍事技術の進歩による大規模な破壊力の脅威などによる人類の危機の接近に対し、人類として可能な回避の道を真剣に探索することを目的としています。

  当時の国連事務総長ウ・タント氏が、「成長の限界」の序論で以下の様に述べています。「私は芝居かがっていると思われたくないけれども、事務総長として私 が承知している情報から、次のような結論を下しうるのみである。すなわち、国際連合加盟諸国が古くからの係争をさし控え、軍拡競争の抑制、人間環境の改 善、人口爆発の回避、および開発努力に必要な力の供与をめざして世界的な協力を開始するために残された年月は、おそらくあと10年しかない。もしこのよう な世界的な協力が、今後10年間のうちに進展しないならば、私が指摘した問題は驚くべき程度まで深刻化し、我々の制御能力を越えるにいたるであろう。」

1970 年ローマクラブが世界に発表した人類の危機レポートは、あれから25年もたってしまったことになります。人類はウ・タント氏のいう制御能力をはるかに越え てしまったのでしょうか...。ハワード卿は自然界の顕著な性格は「多様性と安定化」であると150年も前に論破しています。この原理こそが、大自然を支配し ているのであると述べています。更にこの原理は、永久に循環するサイクルによって休むことなく繰り返され、生物の存続を確認するサイクルを支配しているの です。地球という大地に人間しかいないという状況が仮にあるとしたら、人間が人間を食べ初め、その秩序は完全に失われてしまいます。

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  地球に象や鳥などの動物たちがいるからこそ人は飢えずにすんだのです。植物が光合成するからこそ酸素が存在し、呼吸することが出来るのです。直接人間の生 活には関係のないプランクトンは、魚にはなくてはならないものであり、生を終え腐敗しはじめた肉がなければプランクトンという微生物は発生することはでき ないのです。

この循環の法則、

出生→ 成長→ 成熟→ 死→ 腐敗(出生に戻る)

このサイクルを連続して反復する過程にのみ自然は安定性を得ることが出来、存読が許されるのです。地球の大自然を支配する3つの輪、多様性と安定性、そして循環。この自然の摂理を私たち人間は認識し、守っていかなければならないのではないでしょうか。有機農業は、単なる農業の技術論ではないことがお解りいた だけたことと思います。そして農業というものの最もすぐれた耕作者は、自然であり、自然が自然界を管理する農業が有機農業の本質ではないかと思うのです。

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